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国道16号第3話 少年とロケットランチャー


トロール船
彼女がトロール船になってからどれだけの時間がたったのでしょうか。
 けれれど彼女にはそんな事はどうでもよかったのです、
目の前に広大に広がる大地がある限り前進し続ける。
 それだけだったのです。
 



トロール船

 彼女がトロール船になってからどれだけの時間がたったのだろうか。彼女がトロール船になってからどれだけの距離を歩いて来たのだろうか。しかし今の彼女にはそんな事はどうでもよかった、目の前に広大に広がる大地がある限り前進し続けるだけだった。
 一歩また一歩、彼女の中の何かがせき立てる。踏み出した足にかかる揺るぎない抵抗感が彼女を打ち震えさせ、それ故にまた一歩足を踏み出させる。しかし今、彼女の左前足は今までとは違う暖かい抵抗感を感じていた。新しい喜びに繋がるかもしれないこの感覚に彼女は驚喜した。そしてその新たな喜びを噛みしめるように彼女は左前足にゆっくりゆっくり自重を加え始めるのだった。


ぽち

 間の悪い時というのがある、今の彼がまさしくそれだ。
 彼の仕事は彼の「進むことしか考えられない主人」の前進の障害となる物をいち早くどかすという事だった。今日も彼はいつもどうり熱心に働いていた、彼はこの仕事を好きだったし何より進むことしか考えられない主人を愛していた。全ては順調に進んでいたかに見えた。けれども破綻は突然やってきた、主人の左前足に彼の体が挟まってしまったのだ。
 間が悪かった。彼は思った彼の主人は進むことしか考えられない故次の瞬間容赦なく全体重を彼にかけるだろうと。そして彼は知っていた彼の体はそれに耐えられないと言うことを。けれど彼はそれでいいと思った、なぜなら彼は進むことしか考えられない主人を愛していたかのだから。


サル

 下の相棒さっさと落としちまえよ。凧からのびる電線を伝いながら上は言った。
 まだだ上の相棒、もう少し電灯に近づいた方が赤子がなつく。すかさず下は答えた。
 彼らの仕事はトロール船から凧にのびる電線をつたい、電灯のそばに赤子を落とすことだ。落とされた赤子は電灯を母だと思いこみ、やがて成長してジョシアンとなって一生電灯を守り続ける。
 しかしあいつらがロケット打ちまくってるんだ、速く戻らないと俺達もやばいぞ下の相棒、巧みにロケットをかわしながら上は言った。
 しかしここで落としてもこいつジョシアンにはならないよ上の相棒、泣き叫ぶ赤子をあやしながら下は言った。
 ジョシアンになんかならない方がそいつも幸せなんじゃないか下の相棒、上はさらに移動しながら言った。
 そうかも知れない、けれどこれが僕たちの仕事なんだよ上の相棒、赤子を切り放しながら下は言った。
 そして赤子は計算通り電灯のすぐ側にコトンと落ちた。


赤子

 彼は泣いた、とにかく泣いていた。
 今彼は、今まで母だと思っていたこの大きな船から捨てられようとしていた。この事実は幼い彼を大いに動揺させた。底の見えない深く大きな穴のようなザラザラとした不安に彼は打ちのめされていのだ。
 彼は泣いた、とにかく泣いていた。
この不安を癒してくれる事を彼は切望した。もしそれが叶うなら彼はその全てを捧げてもいいと思った。
 やがて彼はある場所にコトンと落ちた。そして彼は見つけた、暖かい、何かとても暖かい物が近くにあることを。
 母だ。彼は直感した、この暖かい物こそ本当の彼の母なのだと。その瞬間不安は消え、溶けるような温もりが彼を包み込んでいった。そして彼は思った、この温もりを二度と失いはしまいと。


戦士

 ついにこの時が来たのだ。彼は父の形見のロケットを構えながら独白した。今日、彼は戦士としての初陣を迎えていた。
 彼の部族では戦士になる事は容易なことではない、多くの若者が挫折し辞めていった。しかし彼は耐えた。何故なら彼は父の敵を打たなければならなかったからだ。
 彼らが陸鯨と呼んでいるあれが残していく電灯は大地の力をどこかに持って行ってしまう、そしてついにはその一帯の大地を殺してしまうのだ。しかもあれが落としていく赤子はやがてジョシアンに成長し何時までも電灯を守り続ける。彼の父もそのジョシアンにやられたのだった。
 赤子がジョシアンになる前に倒す。これが彼らに残された唯一の方法だった。
 父さん見ていてくれさらに独白した若き戦士は今ゆっくりと引き金を引き始めた。


 それはもはや凧ではなかった。
何故ならそれは風の力を必要としなくなっていたからだ。
 それは自らが出す力によって宙に浮いていた。それはもう凧とは呼べなかった。けれどもそれは凧と呼ばれていた。
 凧は足場として使われていた。大気に頼ることなく自ら力で立った時、それ故、頼られる存在となってしまったのだ。
 頼る物と頼られる物、果たしてどちらが凧に取っては良かったのだろうか。
 



 


      
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