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国道16号第1話 少年と有機バイク


象とバイクと娘さん
平原に乾期が訪れるとバイカー達はサイクルを求めて一斉に旅立ちます。
 サイクルそれは伝説の黄金郷、全てを知る事のできる賢者の石。
 バイカーはそれぞれのサイクルを求め旅立つのです。
 



オアシス

 彼が発生してから35回目の乾期迎えようとしていた。すでに彼は気が付いていた、サイクルが巡って来たのだ、この乾期が彼の最後の乾期となるだろう。彼が発生した大地に帰るときが来たのだった。
 何時からだろうか彼が意識を持ったのは、確かなことは気が付いた時から彼は一人だったと言うことだ。そしてついに彼と同じものに出会うことは無かった。けれども同じものがいると言うことは確かだ、という思いはあった。ただ、ある一定の間隔を置いてでないと自分たちは存在することが出来ないのだろうと漠然と理解していた。
 この35回、彼は様々な所を旅した。そしてそこで様々な動物たちのサイクルに出会った、しかし彼らは誰一人彼に気づこうとはしなかった。何時しか彼は自分が概念的な存在であることを理解した。そして彼が大地に帰るその時始めて自分は具体的な存在になれるのだろうと予測した。それが彼に与えられたサイクルのような気がした。
 ついにその時が来た、徐々に力を失っていた彼は今ゆっくりと前のめりに倒れていった、そして大地は何時になく柔らかく彼を飲み込んでいった。
 消えていく意識の中で彼は、彼の存在をようやく感じとった動物達がやってくる足音を聞いていた。
 その足音がやがて言い様のない感情のうねりとなって彼を包んでいった。
 そしてそれが安堵というものだと理解する前に彼の意識はスルリと消えた。


 3は思っていた何故僕ばかりが何時ものけ者にされるのだろうか。
 乳離れがすんだ象の兄弟は始めての乾期を迎えていた。平原が乾期に入ると草食動物の主食となる草や汁が無くなってしまう。そこでこの時期オアシスを見付けられるかどうかは動物達にとって死活問題なのだ。
 平原最大の動物象も例外ではなかった。けれども兄弟達は力を合わせ水肉の臭いを頼りにオアシスを見つける事に成功していた。
 再び3は思っていた何故僕ばかりが…。
 ストレスの多い平原での男群の生活の中でそれは仕方の無いことなのかもしれない、彼らはそのはけ口を3をのけ者にする事で得ていた。3はあらゆる所でのけ者にされた、兄の1や2は当然として弟である4や5でさえも容赦なく3をのけ者にした。
 何時死ぬか解らない乾期で群のメンバーはそれぞれの役割を全力で当たらなければ生きて行けない、それがサイクルと言う物だ、だから3は今の自分のサイクルを全うすべきだ、といつか1が3に言ったことがあった。
 けれどものけ者にされる役割はちょっといやだなぁ、とやっと見つけたオアシスを前に今日も変わらずのけ者されながら3はぼんやりと思うのだった。


バイカー

 平原に乾期が訪れるとバイカー達は一斉に旅立ち始める。
 バイカーは地上の渡り鳥だ。その翼はバイク、そして平原最大の鳥「唇鳥」の頭部を削り出して作られたヘルメットは星の磁気を正確に教えてくれる。
 彼らが目指すのは「サイクル」かつて伝説のバイカー吉次郎だけが足を踏み入れたと言う幻の黄金郷。しかし彼は帰ってこなかった、ただ彼のバイクだけが平原で発見された「我、サイクルを見つけたり」というメッセージを刻んで。
 こうして多くの若者達が黄金郷を求めてバイクで平原を渡り始めた、けれども多くの者は平原に消え二度とは帰っては来なかった。未だに平原の大部分は未開であり蚊が多く生息する危険な場所なのだ。
 今、バイカー達はオアシスに集まる象の群で一時の安らぎを得ていた。象からは良質の動物性蛋白質が取れるのだ。しかし彼らは直ぐにまた旅立って行くだろう、何故なら彼らはバイカー、地上の渡り鳥なのだ。
 そして何より蚊の群が迫って来ていたからね。


バイク

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 平原が乾期を迎えたころ蚊は産卵のために蛋白質を求めて飛び立つ。今回、初産卵となるサナエも例外ではなかった。
 蚊は普段水草等を食べてる草食動物だ、しかし産卵期のみ栄養を補うために蚊の雌は動物性蛋白質を吸う。
 サナエは焦っていた身重の体をおしてようやく動物の集まるオアシスを見付けたはいいものの今回は蚊の大量発生の回で、すでに大量の蚊が象等の大型の動物に取り付き、もう吸う場所がなかったのだ。速く吸わなければお腹の子が死んでしまう。
 蚊の寿命は極端に短いと言われている、通常3回程度の乾期しか迎えられない。その為産卵時の雌の蚊は見境が無くなる。
 その時サナエはとても小さい二本足の奇妙な生物を見付けた、それはあまりにも小さく弱々しく見えた。
 蚊は大量の動物性蛋白質を吸うため小型の動物が吸われるとかさかさになってしまう。
 サナエは思った、きっと吸ったらあの生き物はかさかさになってしまうだろう。けれどお腹には数万匹の命が育っている、一人のかさかさが数万匹の命を救えるのだ、言うなればサイク。それならあの小さな生き物も本望だろう。 
 ありがとう、お腹の命は必ず産み出します。そう誓うとサナエはその二本足の奇妙な生物にツプッと吸い付いた。


娘さん

 彼女はいらだちを憶えていた、彼女の父は彼女の事を理解しようともせずに彼女をバイカーにしようとしていたのだ。彼女はバイカーになど成りたくはなかった、彼女は街で管を作る仕事がしたかったのだ。けれども彼女の父は今回の乾期の渡りに、無理矢理彼女を連れ出した。私は兄さんとは違うのに、彼女は思うのだった。
 彼女の兄は天才的なバイカーだった。それは吉次郎の再来と呼ばれ、父は己がなし得なかった夢、サイクルを彼に託していた。しかしそんな兄も前の乾期の時「蚊」にやられた。彼らのような小型の哺乳類は象などに付く大型の蚊にやられてはひとたまりもなかった。そしてかさかさになった兄を見た時から優しかった父は変わった、バイクなどに興味もなかった彼女を無理矢理バイカーにしようとし始めたのだ。
 そして今、父は彼女を若い頃からの親友の凄腕バイカーに預けようとしていた。
 素晴らしいバイカーにしてみせますよ、あの子にはその素質がある。馴れ馴れしくあの子と呼ぶ「凄腕」を彼女は直感的に嫌いになっていた。
 父さんも凄腕も蚊に吸われてかさかさに成ってしまえば良いのに、ひとしきりそう思うと彼女は管が作られるイメージに脳を集中させ心を閉ざして行った。
 



 


   
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